あなたの倫理観と資産運用

あなたの倫理観が企業を動かす?株主としての対話(エンゲージメント)入門

Tags: 倫理的投資, エンゲージメント, 議決権行使, 株主, SRI

投資家の新しい役割:企業との「対話」とは

投資を始めたいけれど、「単にお金を増やすだけでなく、自分の価値観や倫理観に沿った形で社会に貢献したい」と考えている方は多いのではないでしょうか。倫理的な投資というと、特定の基準に合わない企業への投資を避ける「ネガティブスクリーニング」や、環境・社会・ガバナンス(ESG)に優れた企業を選ぶ、といった方法が思い浮かぶかもしれません。これらは倫理的投資の重要なアプローチですが、実はもう一つ、投資家が企業に直接働きかけ、より良い方向へ変革を促す方法があります。それが「エンゲージメント」や「議決権行使」と呼ばれる活動です。

この方法について、「株主として企業に何か働きかけるなんて、個人投資家には関係ない話では?」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。特に倫理的な投資を志す個人投資家にとって、企業との対話は自身の倫理観を投資に活かすための重要な手段となり得ます。

エンゲージメントとは何か?なぜ倫理的投資で重要なのか

エンゲージメント(Engagement)とは、機関投資家や個人投資家が、投資先の企業の経営陣と建設的な対話を行い、企業価値の向上や持続可能な成長を促すための活動を指します。特に倫理的な投資においては、環境問題への対応、労働環境の改善、多様性の推進、透明性の高いガバナンス体制の構築といったESG要素や、その他の倫理的な課題について、投資家が企業に改善を求めたり、共に解決策を考えたりすることがエンゲージメントの主な内容となります。

なぜエンゲージメントが倫理的投資において重要なのでしょうか。それは、単に倫理的な問題を抱える企業への投資を避けるだけでなく、企業そのものを内側から倫理的な方向へ変化させることができる可能性があるからです。これにより、その企業の活動全体が社会や環境にとってより良いものとなり、それが巡り巡って持続可能な社会の実現に貢献することに繋がります。

議決権行使:株主の基本的な権利を倫理観に基づいて使う

議決権行使は、株主が株主総会において、企業の重要な方針や役員の選任などに関する議案に対し、賛成・反対の意思表示をすることです。これもまた、株主が企業に影響を与えるための基本的な手段の一つです。

倫理的な投資の観点から見ると、議決権行使は、企業のESGへの取り組みや倫理的な行動について、株主としての意見を表明する機会となります。例えば、環境対策が不十分な企業に対して、環境報告書の充実を求める議案に賛成票を投じたり、労働者の権利を軽視している企業の役員選任に反対票を投じたりすることが考えられます。

エンゲージメントが「対話」を通じて企業を促す比較的非公式なアプローチであるのに対し、議決権行使は株主総会という公式な場で、自身の倫理観に基づいた意思を明確に示す方法と言えます。両者はしばしば組み合わせて行われ、エンゲージメントで改善が見られない場合に議決権行使という形で強い意思を示す、といった連携が取られることもあります。

個人投資家がエンゲージメントや議決権行使に関わるには?

「でも、個人投資家が企業の経営陣と対話したり、株主総会で意見を言ったりするのはハードルが高いのでは?」と思われるかもしれません。確かに、一人の個人投資家が直接大企業に働きかけるのは難しい場合が多いでしょう。しかし、個人投資家でもエンゲージメントや議決権行使に間接的に関わる方法はいくつかあります。

  1. 倫理的な投資信託やETFへの投資: ESG投資やSRI(社会的責任投資)を運用方針に掲げる投資信託やETFの中には、組み入れた企業のエンゲージメントや議決権行使を積極的に行うものがあります。このようなファンドに投資することで、ファンドを通じて間接的に企業の倫理的な改善を促す活動に参加することができます。ファンドによっては、議決権行使の状況やエンゲージメント活動の報告書を公開している場合もありますので、投資する際に確認してみるのも良いでしょう。

  2. 特定のプラットフォームやサービスの利用: 一部の証券会社や資産運用サービスでは、個人投資家向けに投資先の企業の議決権行使に関する情報を提供したり、議決権行使を代行したりするサービスを提供している場合があります。また、倫理的な投資に特化したコミュニティやプラットフォームで、他の投資家と情報交換をしたり、共同で企業に働きかけたりする活動に参加できる機会もあるかもしれません。

  3. 株主総会への参加: 直接株主総会に参加して企業の経営陣の姿勢を見たり、質問をしたりすることも、株主としての意思表示の方法です。ただし、個人投資家一人の意見がすぐに経営方針を変えるほどの影響力を持つことは稀であるため、これは情報収集や企業への関心を示す手段として捉えるのが現実的かもしれません。

エンゲージメントや議決権行使の難しさとその意義

エンゲージメントや議決権行使は、必ずしも望む結果に繋がるわけではありません。企業によっては投資家の声に耳を傾けない場合もありますし、変化には時間がかかるものです。また、どのような行動が「倫理的」であるかという判断は、投資家個人の価値観によって異なる場合もあります。

しかし、重要なのは、投資家が単に市場の動きに合わせて売買するだけでなく、企業に対して倫理的な責任や持続可能性への配慮を求める声を上げること、そしてその声が少しずつでも集まることで、企業や市場全体の意識が変わっていく可能性があるということです。これは、倫理的な投資を「社会をより良くするためのツール」として捉える上で、非常に重要な側面と言えます。

まとめ:あなたの投資が企業と社会を変える一歩に

倫理的な投資は、単に「良い企業」を選ぶだけでなく、「企業をより良くする」という能動的なアプローチも含んでいます。エンゲージメントや議決権行使は、特に個人投資家にとっては馴染みが薄いかもしれませんが、倫理的な投資信託などを通じて間接的に参加することで、あなたの投資が企業の倫理的な行動を促し、ひいては社会全体の持続可能性向上に貢献する一歩となり得ます。

情報過多で何から始めれば良いか分からないと感じるかもしれませんが、まずはご自身の倫理観と照らし合わせながら、どのような企業活動に共感し、どのような変化を社会に望むのかを考えてみてください。そして、その思いを投資という形でどのように表現できるのか、エンゲージメントや議決権行使といった新しい視点も持ちながら、倫理的な投資の世界を探索してみてはいかがでしょうか。